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『 Breath 』

...2009/05/17 15:50...

『 Breath 』



「暑いな・・・・・。」



ある夏の日の深夜。
俺はコンビニからの道を一人歩いていた。
昼の間に灼熱の太陽で焼かれたアスファルトが、この時間になっても熱を発している。
足の裏に固く熱いものを感じながら歩いていると、
「何かが狂っている」・・・そう思わずにはいられなかった。
空を見上げればそこには、太古の昔から変わらず輝き続けている月があるというのに、
この星が変わってしまったのか? それとも・・・・・??



『今日の月は優しいな・・・。』



夕食の後、風呂上りの彼女がベランダで呟いた言葉を思い出す。



「月が優しい・・・・か。」



彼女は月を見上げる時、「綺麗だ」という表現をしない。
「優しい」「柔らかい」「暖かい」「冷たい」「痛い」「怖い」・・・・。
彼女の暗い瞳には、天上の月がそう映るらしい。
その表現の裏に、どんな想いがあるのだろう。



「早く帰って、アイツと一杯やるか。」



優しい月を見上げながら、2人飲むのも悪くない。
俺はコンビニの袋を右手に持ち直し、彼女の待つ家に急いだ。











「ただいま。」



玄関脇に置いてある籠に鍵を放り込み、まずはキッチンへと向かう。
そして数本のビールを冷蔵庫に納めると、2本だけ手に取りリビングへ・・・。



「おい、一杯やるか?」



そう言いながらリビングに足を踏み入れた瞬間、
俺は思わずそのビールを床に落とした。



「おいっ!! どうしたっっ?!」



彼女がTVの前で倒れている。
スグに駆け寄り彼女を抱き起こした。
俺の腕の中で苦しそうに息を荒げる彼女。
その呼吸はどんどん速くなる一方だ。



またか・・・。



「しゃ・・・お・・・。」

「何も喋るな! ゆっくり息を吐き出せ、ゆっくり・・・。」



彼女の手を取り、大声で話しかける。
俺の心臓は破れそうなくらい高鳴った。



「大丈夫だ、俺がココにいるからな。
 そうだ・・・ゆっくり息をしろ・・・。
 ほら、力を抜け。」



俺の腕に抱かれた彼女の目は虚ろに開かれ、
目の前の俺の顔さえ見えていない様子だ。
その瞳は左右へ小刻みに揺れていた。
痛いくらいに俺の手を握る彼女の手も震えている。
まるで瀕死の仔猫だ。



吸って・・・吐いて・・・吸って・・・・。



深夜の部屋の中、
2人の息遣いがTVの音に飲み込まれる。



ふと、彼女の手が動いたかと思うと、床の上をまさぐり出した。
何かを探しているようだ。
何を探しているのかがわからず、彼女の手を眺めていると、
TVの中から聞こえてきた男の怒声に気づく。



これか・・・。



慌てて彼女の指先に転がるリモコンを手に取り、TVのスイッチを切った。



「大丈夫だ。 俺がいるからな。
 もう誰もお前に怖い思いはさせない。」



彼女は幼い頃に義父からひどい目に合わされた過去がある。
だからか、今でも時々TVなどで暴力シーンなどを目にしたりすると、
こうやって発作を起こすのだ。



目がうつろに空を眺めたまま、彼女の手がゆっくりと動き俺の顔に触れる。
そして存在を確かめるようにその手が俺の唇まで辿り着くと、少しずつ呼吸が落ち着いてきた。
虚ろな瞳にも光が戻りようやく俺の姿を捉えると、力ないその目から一筋の涙をこぼす。



「しゃお・・・、ごめん・・・ごめ・・・。」

「何も言うな、謝らなくていい。
 お前は悪くない・・・お前は悪くない。」



力の限り、彼女の震える細い肩を抱くと、
俺の中の全ての感情が溢れ出してきた。



怒り・・・悲しみ・・・苦しみ・・・愛しさ・・・。



なぜコイツがこんな目に合わなきゃいけないんだろう。
なぜ俺は、何もしてやれないんだろう。



月よ、お前も俺と同じ気持ちを抱えているのか・・・??










ソファの前、すっかり落ち着きを取り戻した彼女は
力尽きたように俺に身を委ねている。
体を動かすわずかな力も残っていないらしい。



「あはは・・・カッコ悪いね、私・・・。」



シャンプーの香りが残る彼女の髪に頬を寄せる。



「人が生きていくってのは、そんなにカッコいいもんでもないだろ。」

「孝天らしい答えだね・・・w」



力なく微笑む彼女の顔が、窓から差し込む月明かりに揺れた。



「孝天・・・。」

「ん?」

「強くなりたいよ。 私、強くなりたい・・・。」



彼女の声が震えるのを感じ、顔を覗き込むとその瞳が涙で膨らんでいる。
俺は黙って彼女を抱く腕に力を込めた。



「一人で生きてた時はもっと強い人間だと思ってたのに・・・。
 アンタと出逢ってからどんどん弱くなってる気がする。」

「・・・俺のせいにするのか、ん??」

「そうじゃないよ。 そうじゃないけど・・・・。
 アンタと逢ってからバランスが取れなくなってる気がするの。」

「なんのバランスだ?」

「うまく言えないけど・・・一人で立っていられなくなったみたい。
 こんな発作、今までだって数え切れないほどあったし、
 そのたびに自分で対処してきたのに・・・。
 最近は孝天がいないと治まらなくなってきてる気がする。
 さっきだってヤバイと思ってTV消そうとしたのに、
 孝天がいないことに気がついてパニックになった。
 なんでこんなに弱くなっちゃったんだろう・・・。」



一人で生きてきた彼女。
誰かと交わることを避け、自分の弱さをただひたすらに隠し続けてきた。
そんな彼女が今、目の前に突きつけられた自分の弱さに怯えている。
その恐怖は俺にも痛いほどわかっていた。
それは俺も同じだったから・・・・・。



「人間なんて弱いもんだろ。 
強い人間なんてホントは誰もいないんじゃないか?」

「そう・・・かな?」

「俺はそう思うけど。」

「でも・・・孝天は強いよね?」

「そう見えるか?」

「うん。」

「そうか・・・。 だったらそれはお前のせいだな。」

「私??」



彼女が不思議そうな顔で俺を見つめる。



「ああ、そうだ。
 俺はお前がいるから強くなりたいと思えた。
 でもそれってホントは錯覚だけどな。」

「なに、錯覚って・・・?」

「お前がいるから強くなる。
 だけどそれは裏を返してみれば、お前がいないと強くなれないってことだ。
 結局は俺も弱い人間だってこと。」

「・・・・・・・。」



それきり黙りこんでしまった彼女。
俺の言葉や気持ちが、今の彼女には負担になるだろうことはわかっていた。
だけどどうしても伝えたかった。



一人で血だらけになってまで頑張らなくてもいいんだってこと。
誰かに心ごと体ごと寄りかかる時があってもいいんだってこと。
誰もがそうやって生きてるんだってこと。



彼女が自分の弱さに過剰なくらいに恐怖をおぼえるのは、
誰かに身も心も預けて、その誰かがいなくなってしまったらという思いがあるからだ。
その恐怖はきっと、誰かの愛情に包まれ平穏に生きてきた人間にはわからない。
だけど彼女だけでなく、俺も同じだということが伝えたかったのだ。



「ねぇ、孝天・・・。」



長い時間、黙り込んでいた彼女が口を開く。
それまでの時間の長さが、彼女がどれだけいろんな思いを巡らせていたかを物語っていた。



「なんだ?」

「いつだったか・・・・・・・私と一緒に地獄に堕ちてやるって言ってくれたよね?」

「・・・ああ。」

「ホントに堕ちちゃったね・・・地獄。」



とうとう彼女の瞳から涙がこぼれ落ちた。



「もう手を放してもいいよ? 今ならまだ・・・戻れる。」



細い肩が俺の腕の中で揺れる。
白いTシャツの襟から、その肩の傷が紅く見えた。



「俺の気持ちが重荷か?」



彼女の手が俺のシャツの裾をギュッと握る。
頬には大粒の涙が次々と溢れ、月の明かりにポロポロとこぼれて落ちた。



「うん・・・重い。
 重過ぎて苦しくて、息が詰まりそう。」



そうだろう。
お前はこんなにも愛された記憶がないからな。
お前の母親の愛は、幼い子供には解かり辛過ぎた。
きっと一人になってからは、人の好意にさえ背を向けて生きてきたのだろう。
こんなに愛を押し付けられたこともないはず。



「手を・・・放してほしいのか?」

「・・・・・うん。」



ああ、俺たちはどこまで似た者同士なんだ。
お前の手は、シャツの裾を握り締めたまま「放すな!」と叫んでいるのに・・・。
そんな嘘で自分を守れると思っているのか?



「残念だな。」

「え・・?」

「誰が放してやるか。 やっと見つけたっていうのに・・・。」

「孝天・・・。」

「息が詰まりそう? いいだろう。
 そのうち俺のこの想いで、お前の息の根を止めてやる。
 今から覚悟しておけ。」

「なんで・・・・・。」



彼女がようやく体を起こし、弱々しく俺の方に向き直る。
その涙に濡れた瞳は、どうしようもない不安でいっぱいになっていた。



「いいか、怖がるな。
 これから先、お前は何も怖がらなくていい。
 俺がこの息の止まる最後の瞬間までお前の傍にいてやる。
 だから何があってもこれからはお前一人になることは絶対にないんだ。
 わかったか?」

「息の止まる・・・最後の瞬間まで・・・・??」



彼女は震えるその手を、再び俺の唇に伸ばす。
そしてそっと触れると、心で感じるように静かに瞳を閉じた。



「一緒にいる・・・一緒に生きる・・・一緒に・・・・。」



まるで自分に呪文をかけるように呟きながら、閉じた瞳から涙をこぼす彼女。
愛を感じることができずに育ってきた俺たちは、こうやって手探りで愛を確かめる。
目に見えるものも、耳で聞こえるものも、何もいらない。
こうやって手で、肌で、心で感じながら生きていく。



心ゆくまで俺の息遣いを確かめた彼女が、ゆっくりと瞳を開け問いかけた。



「後悔・・・しない?」



いつもはどこか遠くを見つめる視線が、今は真っ直ぐ俺に向かっている。



「しない。 俺が決めたことだから。」



そう言うと彼女は、やっと安心したように頷いた。
そんな彼女を抱き寄せ、ゆっくりと唇を合わせる。
お互いの息遣いも体温も、ひとつに重ねるように・・・・・。









今夜は首元にかかるお前の寝息を抱いて眠ろう。
今日、この時までそれが続いてきたことに感謝しながら・・・。
そしてこれからもお前に伝え続けていこう。
俺の中にこんな強さがあることに気付いたのは、お前に出逢えたからだということを・・・。





真夏の月が高く輝くある夜。
ふたつの呼吸はひとつになり、新しい朝を連れてくるだろう。
そう、今までとは違う新しい朝を・・・・・。





                                   ~ END ~






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